東京地方裁判所 2021(令和3)年4月21日判決についての原告弁護団コメント (5月7日付)
原告及び弁護団で検討・協議した結果、控訴はしないこととしましたので、本判決は令和3年(2021年)5月7日をもって確定しました。
婚姻関係の証明に関する原告らの権利又は法的地位に危険や不安はないので確認の訴えの利益はないと判断された点についても、別姓のまま成立した婚姻関係は暫定的な状態であってその公証を可能にするかどうかは国会の立法裁量の範囲内であると判断された点についても、その結論・理由は納得できません。しかし、本判決は戸籍への記載を否定したわけではなく、むしろ、戸籍法に基づく家裁への申立の方法によって婚姻関係が戸籍に記載され得ると判断しましたので、今後は、家裁への申立をする方向で検討することとしました。
家裁においては、別姓のまま外国においてその国の方式でした結婚について日本国内でも有効に成立している(「法律婚」である)との本判決の判断を前提に、戸籍への記載の方法等について審理・判断されることが期待されます。
なお、申立時期については、本判決の評釈や戸籍への記載についての議論状況を見て検討していきます。
東京地方裁判所 2021(令和3)年4月21日判決についての原告弁護団コメント (4月21日付)
東京地方裁判所は、別姓のまま米国ニューヨーク州で結婚した想田さんと柏木さんについて、2021年4月21日、「民法750条の定める婚姻の効力が発生する前であっても、…婚姻自体は、有効に成立している」と判断する判決を言い渡しました。「通則法24条2項は、外国に在る日本人が『夫婦が称する氏』を定めることなく婚姻することを許容しているものと解さざるを得ないのであり、そのような場合であっても、その婚姻は我が国において有効に成立しているというほかない」ことを明らかにしました。
国は、「『夫婦が称する氏』を定めていないため、我が国において婚姻が成立していない」と主張していましたが、裁判所は、「婚姻挙行地である外国の方式に従って、『夫婦が称する氏』を定めることなく婚姻が挙行されることは、当然に想定されている」「婚姻自体は成立しているものと解するほかない」と述べ、国の主張を明確に否定しました。
外国で結婚する場合、その国の方式に従って結婚していれば、婚姻年齢等の日本民法が定める実質的婚姻要件を満たす限り、別姓のままでの結婚も有効に成立していることは、戸籍実務や相続実務などでは知られていましたが、本判決によって、この点が改めて明らかになりました。
本判決は、訴えそのものは斥けましたが、別姓のまま婚姻関係にあることについて、戸籍への記載ができないと判断したわけではありません。「婚姻成立認めるも、別姓の戸籍記載認めず」といったニュース見出しもありましたが、「別姓の戸籍記載」を否定したわけではありません。本判決は、戸籍記載の可否については判断を示さず、手続きの異なる家庭裁判所への「申立てを通じて、婚姻関係が戸籍に記載され、戸籍の謄本等の交付を請求することもできるようになり得る」として、その可能性があることを指摘しています。
本判決は、別姓のまま外国で結婚した日本人同士の夫婦の場合、「夫婦が称する氏」を定めるまでは「暫定的な状態の婚姻関係」であると述べていますが、事故等により「暫定的な状態の婚姻関係」のまま夫婦の一方又は双方が亡くなるといった事態がありうる以上(実際、そうした事案があります。)、「暫定的な状態の婚姻関係」であることを理由に戸籍への記載ができない(したがって、国として婚姻関係にあることを把握できない)ことは、当事者にとっても国にとっても望ましい状況であるとは言えません。
このような状況を解消するためにも、選択的夫婦別姓制度の早期実現の必要性が一層明らかになったと思います。
弁護団一同
東京地方裁判所 2021(令和3)年4月21日判決についてのQ&A
Q:海外の方式で行った婚姻が日本法上も有効というのは、実務的にはほぼ確定した取扱いで裁判例もあるようですが、今回の判決は、どのような点で、過去の裁判例とは異なる意義があるのでしょうか?
A:おっしゃる通り、海外の方式で行った婚姻が日本法上も有効というのは、実務的にはほぼ確定した取扱いです。今回の判決は、海外の方式で日本人同士が別氏のまま行った婚姻の日本における有効性が国との間で正面から争われ、重要な争点と認識された上で、その有効性が認められた点が、従前の裁判例とは異なる点となります。
Q:米国ニューヨーク州での婚姻が、「民法750条の定める婚姻の効力が発生する前であっても婚姻自体は、有効に成立している」、とした2021年4月21日の東京地裁の夫婦別姓訴訟は、最高裁判所大法廷に回付された、特別抗告3件に対して、どのような影響があると思われますか?
A:先日の東京地裁判決が現在最高裁大法廷に係属中の特別抗告審に対して法的な効力を及ぼすことはないものの、事実上の影響は少なからずあるのではないかと思います。
と言いますのも、先日の東京地裁判決によって、日本人同士であっても、海外の方式で婚姻すれば、日本法上も有効な別氏婚ができるという点が明らかになりました。そして、国は、夫婦同氏は婚姻の実質的成立要件であるという主張を行いながらも、そもそも何故日本人同士の婚姻のみ同氏が成立要件となるのか、その実質的な理由に関する主張を行うことは最後までありませんでした。そのため、上記の東京地裁判決によって、夫婦同氏を義務付けている民法750条のそもそもの存在意義が問われる事態となったのではないかと考えています。
これにより、当方が特別抗告審で行っている憲法14条違反に関する主張(信条による差別)、及び、憲法24条違反に関する主張(立法裁量の逸脱)のいずれに対しても、最高裁は、夫婦同氏の義務付けに実質的な理由はなく、合理的な理由なき差別あるいは立法裁量の逸脱である、という判断を下しやすくなったのではないかと思います。
また、先日の東京地裁判決に対しては、今後判例評釈が続々と出されると思いますので、それらが最高裁の判断に影響を及ぼすこともあり得るように思います。