☆別姓訴訟を支える会 メールマガジン☆第65号  2021年9月23日

別姓訴訟を支える会事務局です。

メルマガ第63号より、6月23日に出された最高裁大法廷の決定について、専門家から出された評釈を紹介しています。
今回は木村草太先生の評釈について、弁護団の寺原真希子弁護士が解説します。

◆◆◆

皆様、いつも御支援ありがとうございます。
弁護団の寺原真希子です。

今回は、憲法学者・木村草太東京都立大学教授による
論説及び評釈の要点をご紹介したいと思います。

詳細については、是非、
原文(法律時報93巻5号及び9号)をご覧下さい。

1.「同氏合意による区別と平等権-第二次夫婦別姓訴訟を素材に」
(法律時報93巻5号)

まず、こちらの論説は、
今年6月23日の最高裁大法廷決定が出る
少し前に書かれたものです。

婚姻届不受理申立事件及び国家賠償請求訴訟の下級審の裁判所が、
「同氏合意による区別自体がない」と判断してきたこと
(例えば、東京地裁令和元年10月2日判決は、
「民法750条の規定は、婚姻の効力の一つとして、
夫婦が夫又は妻の氏を称することを定めたものであり、
婚姻をすることについての直接の制約を定めたものではない」、
「夫婦別氏の希望を指標として不利益な取扱いを定めたものではない」
としています。)に対し、

木村教授は、
「判決には、同氏合意は婚姻成立要件でないから区別はない、と読める記述がある。
この論理を本気で採用すると、現行法でも別姓婚が可能なはずだ。」
と判決の矛盾を指摘した上で、
「同氏合意の有無により、婚姻の効果を享受できるか否かの区別があることは否定できない」
としています。

その上で、
「戸籍上の氏はただの記号ではなく、氏名権の基準であり、社会的にも大きな意味を持つ。
そうだとすれば、氏の変更を求める場合には、相応の合理的理由がなければならない。
しかし、同氏合意の有無は、嫡出推定や共同親権、法定相続分や遺留分などの婚姻の効果を享受させるか否かの基準として全く不合理であり、民法750条は、平等権侵害として違憲無効と評価すべきであろう。」
と結論付けています。

木村教授は、結語として、
「大法廷が、以上のような正しい理論と結論を示すことができるか注目される。」
とされていたのですが、残念ながら、
最高裁がその期待に応えることはありませんでした。

2.「同氏合意による婚姻・戸籍作成の区別の合憲性-東京地裁令和3年4月21日判決」
(法律時報93巻9号)

次に、こちらの評釈は、
婚姻関係確認訴訟における今年4月21日の地裁判決と、
婚姻届受理申立事件における今年6月23日の最高裁大法廷決定について、
書かれたものです。

婚姻関係確認訴訟において、
米国ニューヨーク州在住の原告ら(双方とも日本人)は、
別姓のまま、同州で婚姻を挙行し、婚姻証書を得ていることから、
婚姻が成立していることを前提に、国に対し、
戸籍による婚姻関係の公証を受け得る地位にあること
の確認等を求めていたところ、

東京地裁は、原告らの請求自体は棄却したものの、
判決の中で、同氏合意は婚姻成立要件ではなく、
婚姻は成立していると述べました。

木村教授は、まず、この判決について、
「本判決は、原告の請求を退けつつ、<戸籍なき婚姻>の成立を認めた。
ただ、<戸籍なき婚姻>を認めれば、婚姻関係を戸籍によって証明できなくなる。
重婚防止は難しくなり、相続で不測の損害・損失も生じやすくなるだろう。」
と懸念を示した上で、
「<戸籍なき婚姻>という無理な概念を作らず、…民法750条に基づく区別を違憲無効とした方が素直だったのではないか。」
と述べています。

さらに、木村教授は、
「同じく有効に成立した婚姻でも、同氏合意をすれば戸籍が作られ、しなければ戸籍が作られない、という区別が生じることになった」ことを捉え、
同判決が別氏での戸籍なき婚姻をあくまで「暫定的な状態」だとしたことについて、
「『暫定的』との理由で戸籍による公証をしないことに合理性があるとは言い難い。」、
「同氏合意の有無で戸籍作成を区別するのは不合理で、戸籍法74条1号は平等権侵害と評価せざるを得ない。」
としています。

また、本年6月23日の最高裁大法廷決定については、
同決定が、申立人らの憲法14条1項違反の主張について、
「その前提を欠く」とだけ述べて切り捨てたことに対し、
「『別姓の夫婦がいるのは受け入れたくない』との嫌悪感を持つ者がいるのは事実だが、それは法的に考慮すべき感情とは言えない。
『同氏合意したカップルと合意しないカップルとを区別することに、合理性があるのか』との問題に正面から向き合えば、合理性がないことは明らかだろう。」
とされています。

3.木村教授の論説・評釈を受けて

木村教授は、以前より、
選択的夫婦別姓訴訟の研究を深められており、
今回の第二次訴訟における憲法14条1項違反の法律構成は、
同教授からのご示唆を踏まえたものでした。

最高裁が「前提を欠く」とだけ述べてその判断を回避したことは、
司法の責務を放棄したものと言わざるを得ず、
弁護団有志にて、本年7月26日、
特にその点を問う再審申立てを行ったことは、
以前ご報告したとおりですが、
木村教授が仰るように、
この問題に最高裁が真正面から誠実に向き合えば、
別氏カップルを婚姻制度から排除することには合理性がない
という結論が導かれることは明らかです。

現在、弁護団は、第三次訴訟へ向けて、
鋭意、法律構成等を検討中です。

学者の皆様の評釈を参考にさせていただきながら、
選択的夫婦別姓を勝ち取るその日まで、
全力で突き進みたいと思います。

弁護士 寺原真希子

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