別姓訴訟を支える会事務局です。
前回の発行から間があいてしまいましたが、皆さま元気にお過ごしでしょうか。コロナ禍で海外旅行に行けなくなったという方も多いと思います。
今回から複数回に分けて、昨年11月、「夫婦別姓─家族と多様性の各国事情」(ちくま新書)を出版した著者の案内で、「夫婦別姓」をテーマに世界を巡ってみたいと思います。
第1コースの案内人は、ベルギー在住のライター栗田路子さんです。(恩地いづみさん企画の昨年の忘年会にも参加されたのでZOOM越しにお顔合わせされた方もいらっしゃるかと思います)。
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【第1コース】英国→米国
「婚姻と姓」は私のライフテーマの一つといってもいい。まず日本人の夫と結婚して改姓した時の違和感に端を発し、その夫に先立たれた時、米国の大学院に出願する時、欧州に渡って再婚する時、国際養子縁組する時…。国内はまだしも、国外に出た時、私の「姓」の難解な変節はしつこく私を困らせた。
いよいよ第2回別姓訴訟の最高裁判断が下る2021年、30年越しのライフテーマに私なりのけじめをつけたいと企画したのが、本書「夫婦別姓─家族と多様性の各国事情」だった。
私のように非日本人と結婚し、子どもを持ち、その地に根を張って生きる仲間に声をかけ、原稿を集めてみると予想以上に面白かった。
目から鱗だったのは、西洋にも東洋にも「家父長制」が瓜二つで存在し、女性の権利や姓名に重石となってきたこと。日本だと「別姓か同姓か」の二択と思いがちだが、世界を見渡せばバリエーションがいろいろあること。どの社会も試行錯誤しながらどんどんアップデートしていること…など。
そしてそれぞれの社会の歴史に、踏ん張ってきた人々(主に女性)がいたのだという鳥肌の立つような現実。詳しくはぜひ拙著を読んで感動を共有していただきたいが、ここでは私のお薦めの読み進みコースに沿って、予告編よろしく少し解説してみたい。
第1のお薦めコースは「英国→米国」。
ベルギー在住者としてはちょっと癪ではあるが、日本人の興味はなんといっても英米だ。日本の政治家先生や知識人にも、英か米で学んだり働いたりした経験を持つ人が多い。米国は英国から移民した清教徒が創った国だから、英国由来のコモン・ロー(判例法)が通底する。どちらも、姓名はいつでも好きなように変えられるもの─という原理原則があって、酔った勢いで男性が好きな女性歌手の姓名に変えることすら可能だというからたまげてしまう。両国に共通する「カバチャーの法理」に至っては、英米を知ってるつもりの多くの人が「何それ?」と首をかしげる。
カバチャー(coverture)は、11世紀ごろフランスからイングランドに逃げた人々が持ち込んだ古典フランス語。当時のフランスの法体系が英国に持ち込まれた名残ともいえる。これにより「カバー」(包み守る)されるべきカヨワイ女性は男性の庇護下に置くべしという保守的家父長制が英米社会に禍根を残したのだ。英国から枝分かれしたとはいえ、米国には先住民族や移民たちが山ほどいたし、プロテスタント保守も独自に進化していったので、今日両国の「婚姻と姓」は随分異なるようにも見える。それでも、「かなりジコチューな自由への欲求」と「伝統への固執」が共存するWASP社会の性(さが)が、両国でそれぞれ展開し続けている様を、ぜひ読み解いていただきたい。
栗田路子
(次回に続く)
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