2022年7月に別姓訴訟弁護団有志が出版した書籍「夫婦同姓・別姓を選べる社会へ」を紹介します。
本書では、選択的夫婦別姓に関するよくある質問の解説から、夫婦別姓をめぐる社会状況の変化、別姓訴訟や判決の解説、関連する憲法や条約の解説まで、選択的夫婦別姓に関わる情報が幅広く取り上げられています。
これから選択的夫婦別姓を知ろうとする方から、すでにある程度知っている方まで、幅広く知識と情報が得られる書籍です。支える会メンバーの筆者も、新聞やWebの記事などである程度の知識はあったものの、本書を読むことで、別姓訴訟の内容や最高裁決定の意味、背景となる憲法や条約、1996年の法制審の法案などを改めて理解することができました。
訴訟の解説だけでなく、原告が書かれたコラムや訴訟の意見陳述抜粋では、やむなく改姓や事実婚を選択した方の残念な気持ち、別姓で結婚できる制度を求める気持ちが切々と綴られています。選択的夫婦別姓を望む人々の思いを知って頂く意味でも、多くの方が手に取って頂きたいと考えています。
1章では「Q&A」として、制度や歴史、よくある質問への回答など、コンパクトにわかりやすく解説しています。
2章では「夫婦別姓を選べる制度が求められる理由」として、改姓による不利益や事実婚の不利益などを、当事者の声を交えながら整理しています。
3章では「社会や家族の変化」として、社会や家族の変化に関する統計、政府や国会での動き、海外での夫婦の姓や子供の姓に関する制度などが紹介されています。
4章では、1996年に法務省が公表した法改正案が決まるまでの経緯や法案について解説されています。法制審議会での議論は1991年に始まり、複数の案が比較検討され5年の歳月をかけて制定されました。巻末の資料には、最終的な法務省の改正案が掲載されています。
本書で最も重要な部分が、第5章の「司法の動き」と6章「選択的夫婦別姓と憲法・条約」です。
5章では、弁護団が関わった裁判を中心に、選択的夫婦別姓に関わる訴訟を広く取り上げ解説しています。特に第一次夫婦別姓次訴訟・第二次訴訟については、訴訟の進め方や主張内容、訴訟の経緯、最高裁大法廷決定に関する解説が記されています。また、第二次訴訟の合憲意見の根拠とされた通称使用制度の限界や課題についても解説されています。
6章では、憲法13条(個人の尊重)、14条1項(法の下の平等)、24条1項(夫婦の同等の権利)2項(個人の尊厳、寮生の本質的平等)にてらして、第一次訴訟・第二次訴訟の主張の論旨と、最高裁の判断(最大決)の合憲意見と違憲意見を、憲法学者からの意見なども交えながら、詳しく解説しています。
24条の解説では、第二次訴訟の合憲意見にある「憲法は(中略)ここでいう婚姻は法律婚であって、これは、法制度のパッケージとして構築されるものにほかならない」について、わかりやすい文章で説明されています。合憲意見では、夫婦同氏をパッケージに含む法律的な婚姻を選択するのは「個人の自由」であれり、それが意に沿わないのであれば法律的な婚姻を選択しなければ良い(そのため違憲ではない)、と言っているのだそうです。法律的な婚姻ではない場合も、法律的な婚姻と全く同じ条件であれば、「個人の自由」とすることも納得できます。しかし現在は、法律的な婚姻を選ばない場合様々なデメリットがある状況です。これを「個人の自由」と片づけるのはあまりにも乱暴なロジックではないか、と改めて認識しました。
7章の「夫婦同姓・別姓を選べる社会へ」では、これまでの訴訟で得られたことと、今後始まる三次訴訟に向けた思いが綴られています。
書籍の内容については、以下の書籍目次もあわせてご覧いただき、ぜひ本書を手に取ってお読みください。
- 夫婦同姓・別姓を選べる社会へ
〜わかりやすいQ&Aから訴訟の裏側まで〜
– 目次 –
はじめに
第1章 Q&A - 1 導入
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Q1 選択的夫婦別姓制度とは、どんな制度ですか。
Q2 夫婦の姓について、今はどのような制度になっているのでしょうか。
Q3 夫の姓と妻の姓、どちらを名乗る夫婦が多いのでしょうか。
Q4 どのような人達が選択的夫婦別姓制度を求めているのでしょうか。 - 2 歴史・経緯
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Q5 選択的夫婦別姓制度は、いつ頃から議論されているのでしょうか。
Q6 日本は昔からずっと夫婦同姓だったのでしょうか。
Q7 姓(氏)は、家の名称なのでしょうか。 - 3 世論/国会・司法の動き/海外の状況
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Q8 世論としては、賛成と反対、どちらが多いのでしょうか。
Q9 国会での議論は、どのような状況なのでしょうか。
Q10 なぜ、選択的夫婦別姓訴訟が起きたのでしょうか。
Q11 選択的夫婦別姓訴訟では、どんな主張をしているのでしょうか。
Q12 裁判所は選択的夫婦別姓を認めなかったのでしょうか。
Q13 夫婦の姓について海外ではどんな制度になっているのでしょうか。
Q14 日本が国連から法改正の勧告を受けているというのは本当ですか。 - 4 家族・子どもとの関係
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Q15 夫婦別姓を認めると家族の絆や一体感がなくなってしまいませんか。
Q16 夫婦別姓(別姓家族)だと、周りから夫婦(家族)だと分かりにくくなりませんか。
Q17 別姓夫婦の子どもの姓はどうなるのでしょうか。
Q18 別姓夫婦の場合、子どもの姓をどちらにするかいつまでも夫婦で意見が一致しない可能性はありませんか。
Q19 片方の親と姓が違う子どもは可哀想ではありませんか。
Q20 同姓でないと同じお墓に入れないということはありませんか。 - 5 戸籍との関係
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Q21 選択的夫婦別姓制度が導入されたら、戸籍はどうなるのでしょうか。
Q22 選択的夫婦別姓制度が導入されると、戸籍制度が崩壊しませんか。 - 6 選択的夫婦別姓制度導入の必要性・手続き
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Q23 結婚前の姓を通称として使用すれば問題ないのではないですか。
Q24 すべての場面で結婚前の姓(旧姓)を使用できるように通称を法制化すればよいのではないですか。
Q25 今の制度に納得できないなら、法律婚できなくても仕方がないのではないでしょうか。
Q26 少数の人のために法制度を変える必要があるのでしょうか。
Q27 姓は家族のあり方に深く関わるので、国会や社会において慎重に検討すべきではないでしょうか。
Q28 選択的夫婦別姓制度の導入は、国民のほとんどが賛成するまで待つべきではないですか。
Q29 選択的夫婦別姓制度を導入するかどうかは、国民投票で決めたらよいのではないでしょうか。
Q30 コロナ対応、経済、国防など、選択的夫婦別姓の議論より先に議論しなければならないことがあるのではないでしょうか。
Q31 選択的夫婦別姓制度の導入には多額の費用(税金)がかかりませんか。 - 7 その他
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Q32 選択的夫婦別姓制度を認めるなら、一夫多妻制や近親婚も認めることになりませんか。
Q33 夫婦別姓という選択肢ができると、結婚できない人が増えませんか。
Q34 選択的夫婦別姓制度の導入は、女性天皇/女系天皇を認めることに繋がるのでしょうか。
Q35 選択的夫婦別姓制度は、選択制であるにもかかわらず、なぜ、なかなか実現しないのでしょうか。 - 第2章 夫婦別姓を選べる制度が求められる理由
婚姻改姓による不利益 -
アイデンティティの喪失感/通称使用の問題点/最高裁判所による指摘
- 結婚の障害になっていること
- 事実婚の不利益
- 二者択一であること
- 第3章 社会や家族の変化
1 1947年からの社会・家族の変化 -
家族と世帯/世帯構造の変化/核家族化/離婚時の婚氏続称/外国人との婚姻(国際結婚)と姓/就労の変化/女性の就業率の上昇/婚姻・出産後も就業を継続する女性の増加/女性管理職の増加/女性役員の増加/共働き世帯の増加/婚姻・出産しても仕事を続ける意識の調査/婚姻率の低下と未婚率の上昇/晩婚化/再婚の割合の増加/離婚率2 夫婦の氏についての意識の変化
- 2 夫婦の氏についての意識の変化
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1 夫婦の氏についての意識/2 内閣府調査の問題点/3 2021年調査の問題点/4 事情の変化と憲法適合性
・「神田川」を歌いたい(第二次訴訟原告 澤田道華)
・姓をどちらにするか考えずに結婚できる社会に(第二次訴訟原告 山崎精一) - 3 戦後の夫婦の氏をめぐる動き
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民法750条の成立/1954(昭29)年からの見直し/婚氏続称制度/外国人との婚姻(国際結婚)と氏/1970年代からの選択的夫婦別姓を求める動きや裁判/1991(平3)年の法制審の審議開始と96年の法務省改正案/通称使用の拡大/2000年以降の動き/男女共同参画社会基本法/2009(平21)年から現在/1996(平8)年法務省案の行方ー他の改正課題は
・夫婦別姓をめぐる国会の動き(NPO法人mネット・民法改正情報ネットワーク理事長 坂本洋子)
・立法府のお尻を叩く地方議会と経済界の動向(選択的夫婦別姓・全国陳情アクション事務局長 井田奈穂) - 4 夫婦の姓と子どもの姓に関する外国の制度
- 第4章 1996年の法務省改正案
1 法務省の改正案 -
1991(平3)年に法務大臣が諮問/5年の審議と中間の報告/1992年中案報告への反響/1994年要綱試案のA〜C案と反響/1996年答申案と法務省の改正案
- 2 各法案の形
- 3 各法案と子の氏
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法務省案とA案(子の氏は婚姻時に決める)/B案(子の氏は出生時ごとに決める)/C案と子の氏/子の氏の統一
- 4 別氏夫婦の戸籍の形
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・私の家の表札は複数ある!(水沢実)
・家族であろうとすること(第二次訴訟原告 水沢博)
・突然の弁護士、偶然の原告、必然の選択制(第二次訴訟原告 高橋彩) - 第5章 司法の動き
1 1980年代から始まった裁判 -
1988(昭63)年通称使用訴訟(国立大学教員)/1989(平元)年別姓婚姻届の受理申立裁判/2001(平13)年通称使用訴訟(民間企業会社員)/2006(平18)年別姓婚姻届の受理申立裁判/2011(平23)年第一次夫婦別姓訴訟/2012(平24)年通称使用訴訟(元県立高校教諭)/2015(平27)年通称使用訴訟(私立学校)/2018(平30)年第二次夫婦別姓訴訟/2018(平30)年サイボウズ青野氏らによる夫婦別姓訴訟/2018(平30)年再婚時の問題を提起した夫婦別姓訴訟
・国民の権利として(第二次訴訟原告 大山礼子) - 2 第一次夫婦別姓訴訟
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別姓訴訟のはじまり/訴訟の経過/原告の主張/立法不作為の違法(国会が法律の改正を怠った行為)/東京地裁(一審)および東京高裁(控訴審)で/上告審/合憲の判決/2015年最大判の違憲意見/ふりかえって次へ
・「この名前で生き、逝きたい」という素朴な思い(第一次訴訟原告 小國香織) - 3 第二次訴訟
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第二次訴訟へ向けて/判例拘束性の壁を乗り越える/第二次訴訟の全体像/複数の裁判所へ/原告(申立人)の皆さんと応援団/別氏婚姻届の受理を求める家事審判/立法不作為に基づく国会賠償請求訴訟/大法廷へ/最高裁大法廷2021(令3)年6月23日決定の判断/夫婦同氏は、婚姻の法律上の成立要件・直接的な制約/憲法14条1項違反(夫婦が称する氏の記載がない者への差別)/憲法24条違反/通称使用の拡大の位置付け/婚姻届の受理/2021(令3)年国民審査/2022(令4)年最高裁決定の判断
・結婚を望む二人に、望む氏名での結婚を(第二次訴訟原告 真島幸乃)
・互いを尊重し合える形を大事にしたい(第二次訴訟原告 有本信) - 4 夫婦別姓確認訴訟
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別姓婚の確認訴訟/別姓婚は日本でも有効に成立
- 5 通称使用の拡大と別姓
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通称使用の広がり/通称使用の限界と弊害/最高裁判所の考え方/通称使用の法制化について/まとめ
・別姓訴訟原告、凹んだり元気を出したり(第二次訴訟原告 恩地いづみ) - 第6章 選択的夫婦別姓と憲法・条約
1 憲法13条 -
氏を失うこと・望まない改姓を強いられること/憲法13条と人格権/第一次訴訟で/第一次訴訟判決(2015年最大判)への批評/人格権とは/民法(私人間)における氏名の権利・利益/法律が認める氏についての権利等/自らの意思による選択/家族の呼称か個人の呼称か/「氏の保持」は氏名についての中核の権利
- 3 憲法24条
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1 憲法24条とは/2 憲法24条の趣旨・判断枠組み/3 氏の人格的価値/4 憲法24条と「婚姻の自由」/5 夫婦同氏の合理性?/6 憲法24条1項の「夫婦同等の権利」/7 憲法24条2項の「両性の本質的平等」/8 同氏夫婦と嫡出子ー規格・原則論/9 事情の変化
- 4 女性差別撤廃条約・自由権規約
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条約とは/国連の女性差別撤廃委員会/自由権規約(市民的及び政治的権利に関する国際規約)/個人通報制度に関する選択議定書/女性差別撤廃条約(女性に対するあらゆる形態の差別の撤廃に関する条約)/選択的夫婦別姓訴訟と条約
・夫婦同氏強制は当初から憲法違反であった(憲法研究者 高橋和之) - 第7章 夫婦同姓・別姓を選べる社会へ
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訴訟で得られたもの
司法の役割
第三次訴訟に向けて〜すべての人の問題であること - 巻末資料
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1 夫婦の氏に関する年表
2 民法の一部を改正する法律案要綱