最高裁大法廷決定に対する立命館大学二宮周平教授の評釈を紹介 / 弁護士 野口敏彦

判決・決定の解説

最高裁大法廷決定に対する立命館大学二宮周平教授の評釈をご紹介いたします。先般の大法廷決定を詳細かつ網羅的にご検討下さっていますので,本記事読了後は,是非原文(https://note.com/legal_scholars/n/nf676fa525fbc )も併せてご参照頂ければ幸いです。

1.合憲意見の紹介と批判

二宮先生は,冒頭で「法廷意見と補足意見の限界」と題して,本決定の合憲意見(多数意見と補足意見)の要旨を紹介されると共に,以下のように批判されています。
「国会での立法を促した最大判平27年から5年半,国会で法案として審議されていない現状を踏まえたとき,再び国会にボールを投げて判断を委ねることは,少数者の人権を護るという国民から負託された最高裁の責務に反する。法廷意見,補足意見の限界は,氏名及び婚姻に関して『制度優先思考』に囚われ,選択的夫婦別氏制の問題を,氏の変更を強制されない自由及び婚姻の自由という人権に関する事項として捉えないことにある。」

2.「意見,反対意見の論理と意義」

次に,二宮先生は「意見,反対意見の論理と意義」と題して,本決定の違憲意見(三浦守裁判官の意見,宮崎裕子・宇賀克也裁判官の共同反対意見,草野耕一裁判官の反対意見)を,
①「氏の人格権性と制度優先思考の否定」,
②「婚姻の自由の制約」,
③「最大判平27年による合理性判断の妥当性」,
④「憲法24条1項と2項の関係」,
⑤「国民各位の福利の比較衡量」,
⑥「本件婚姻届の受理」
の6つの視点から分析されています。

①「氏の人格権性と制度優先思考の否定」では,三浦意見と宮崎・宇賀共同意見がいずれも,氏が持つ個人識別機能や人格・アイデンティティの象徴としての意味に鑑み,氏に関する利益を「個人の重要な人格的利益」あるいは「憲法13条により保障される人格権」であると認定したこと,また,その両意見とも「制度優先思考ではない」(法律の内容如何によって,この人格的利益・人格権としての意義が失われるものではない)ことに言及した上で,以下のように述べられています。「これら2つの見解を組み合わせると,婚姻前の氏を維持する利益は人格的利益として憲法13条の保障を受けるのだから,婚姻に際して氏の変更を強制されない自由を憲法13条によって保障される人格権として構成することが可能になる。」

②「婚姻の自由の制約」では,両意見がいずれも,夫婦同氏が婚姻の「要件」であることを前提として,婚姻当事者の一方のみが必ず氏に関する人格的利益を放棄・喪失させられる制度であり,婚姻をするかどうかについての自由かつ平等な意思決定を妨げると判示したことを指摘した上で,「問題は,婚姻の自由に対する上記のような制約や侵害を正当化する理由があるかどうかである」として,次の③の論述につなげています。

そして,③「最大判平27年による合理性判断の妥当性」では,三浦意見が,平成27年最大判が挙げた夫婦同氏制の合理性の根拠を逐一排斥したこと,宮崎・宇賀意見が,「氏が家族の呼称としての意義を有する」という考え方には「憲法上の根拠がない」と述べたこと,「家族」という概念自体,憲法でも民法でも定義されておらず,社会通念上は多義的であると述べたこと,子の氏とその両親の氏が同じである家族は,「様々な家族の在り方の一つのプロトタイプにすぎない」と述べたこと等に触れ,別氏希望者の婚姻の意思決定を侵害することについて,「公共の福祉の観点から合理性があるということはできない」と述べられています。

④「憲法24条1項と2項の関係」では,宮崎・宇賀意見が平成27年最大判とは異なり,夫婦同氏を婚姻成立の要件とすることは憲法24条1項の趣旨に反するとしたこと(平成27年最大判では,夫婦同氏は婚姻の効力であり,婚姻に対する制約は事実上のものにすぎないため,憲法24条1項の婚姻の自由の侵害はないとしていました),また,仮に平成27年最大判の枠組み(憲法24条2項に基づく立法裁量の限界を逸脱したか否か)に従ったとしても,平成27年最大判が考慮しなかった3点(夫婦の一方(特に妻)のみが負担を負い続ける不平等が存在する制度であること,旧姓使用の拡大により夫婦同氏制の合理性の実態は失われていること,国連女子差別撤廃委員会から法改正を要請する3度目の正式勧告を受けたこと)を考慮すれば,やはり憲法24条(2項)に違反すると判断したことに言及されています。

続けて,⑤「国民各位の福利の比較衡量」では,草野反対意見が採用した比較衡量論を紹介しています。具体的には,草野裁判官が,憲法24条違反を検討するに当たっては「選択的夫婦別氏制を導入することによって向上する国民各位の福利とそれによって減少する国民各位の福利を比較衡量することが有用」と述べた上で,婚姻当事者,その子,親族,及び「夫婦同氏を我が国の『麗しき慣習』として残したいと感じている人々」のいずれの立場からしても,「選択的夫婦別氏制を導入することによって向上する国民の福利は,同制度を導入することによって減少する国民の福利よりもはるかに大きいことが明白」であると述べたことを紹介されています。そして,当該判断に際して草野裁判官が,「戦前の『家』制度の下であれば格別,これを否定した現行の憲法と家族制度の下で,夫婦同氏制度を定めた本件各規定が社会の倫理の根幹を形成している規定であるとみることは不適切」であるため,「国民各位の福利に還元し得ない価値」は考察の対象から排除して検討すべきとしたこと(平成27年最大判が行った,「家族は社会の自然かつ基礎的な集団単位」だから,「氏をその個人の属する集団を想起させるものとして一つに定めることにも合理性がある」とするような捉え方を排除したこと)を肯定的に評価されています。

そして,最後の⑥「本件婚姻届の受理」では,宮崎・宇賀意見が,本件で不受理となった別氏での婚姻を求める婚姻届について,「届出の日付での受理を命ずる審判をすべき」としたことについて,「事案の解決の具体的妥当性は裁判の生命」だとして,前向きに評価されています。

3.ジェンダー平等に対する認識,通称使用の評価

この他,二宮先生は,三浦意見と宮崎・宇賀意見のそれぞれの違憲判断の根底に「ジェンダー平等の視点があるものと推測」され,「このような視点に満腔の共感を覚える」と述べられると共に,現在,自民党が検討している通称使用の拡大策の提案に対して,三浦意見,宮崎・宇賀意見及び草野意見のそれぞれが示した否定的評価を紹介することで,当該提案を「不合理とする理論的検討の一助としたい」と述べられています。

4.結語

二宮先生が指摘して下さった点は,そのいずれも正に正鵠を射ておりますので,今後の第三次訴訟に向けた検討の軸として(特に憲法24条論の軸として),活用させて頂くことになると思います。
今後も,先般の大法廷決定及び夫婦別姓確認訴訟の東京地裁判決に対する有益な評釈を入手次第,随時皆様に内容をご紹介させて頂こうと思います。ご期待ください!

弁護士 野口 敏彦