最高裁大法廷決定に対する再審申立て・およびその結果について

判決・決定の解説

最高裁大法廷決定令和3年6月23日に対する再審申立てを行った背景、および再審申立ての結果について、以下、ご説明いたします。

再審申立てについて 2021年7月26日

  1.  本日,第二次選択的夫婦別姓訴訟弁護団有志は,先月23日に最高裁判所大法廷によって告知された決定について,同裁判所宛てに再審申立書を提出いたしました。
    再審とは,裁判所の確定判断について,その手続に重大な欠陥があったことが発見されたり,その判断に影響を及ぼすべき重大な事項について判断の遺脱があったような場合に,当事者がその判断の取消しと事件の再審理を求める非常の不服申立方法です。
    裁判所(特に最高裁判所)の確定判断が覆ることは,法的安定性の観点から実務上ほとんどありませんが,先般の決定については,その点を考慮してもなお看過できない判断の遺脱があると考え,敢えてこのような異例の申立てに踏み切った次第です。
  2.  具体的には,先般の決定が,再審申立人ら(抗告人ら)の憲法14条1項違反の主張について,「その余の論旨は,違憲をいうが,その実質は単なる法令違反を主張するもの又はその前提を欠くものであって,特別抗告の事由に該当しない」とのみ判示した点が,家事事件手続法103条3項が準用する民事訴訟法338条1項9号が定める再審事由である「判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと」に該当するという主張を行いました。
    上記の「判決に影響を及ぼすべき重要な事項について判断の遺脱があったこと」とは,当事者が適法に裁判上提出した攻撃防御方法等が,裁判所の判断の主文に影響を及ぼす事項であったにもかかわらず,その理由中で判断を示さなかった場合を指します(大判昭7年5月20日民集11巻1005頁)。
  3.  この点,再審申立人ら(抗告人ら)は,本件において一貫して,民法750条及び戸籍法74条1号(本件各規定)が,夫婦別氏を希望する者に対する差別的取扱いを行うものであり,憲法14条1項に違反すると主張してきました。具体的な主張内容は,以下のとおりです。
    ⑴ 法的な別異取扱いの存在(形式的平等の不存在)
    まず,本件各規定は,夫婦となろうとする者を,婚姻届上の「夫婦が称する氏の記載」の有無で区別し,記載のある者に婚姻を認め,記載のない者には認めないという異なる取扱いをしています。これが本件各規定による法的な別異取扱いに該当する(形式的平等が保たれていない)ことに,争いの余地はありません。
    ⑵ 区別を生じさせている事由の性質
    次に,かかる法的な別異取扱い(本件別異取扱い)を生じさせている事由(「夫婦が称する氏の記載」の有無)は,法律婚を希望するカップルが夫婦同氏を希望(ないし許容)するか夫婦別氏を希望するかということの帰結(あらわれ)であるところ,氏名は,「人が個人として尊重される基礎であり,その個人の人格の象徴であって,人格権の一内容を構成」します(最判昭和63年2月16日民集42巻2号27頁)。そうであるとすれば,夫婦双方が婚姻後も継続して生来の氏の継続使用を希望し,かつ互いのそうした希望を尊重しあう夫婦として生きるか,あるいは夫婦の一方が氏を変更することによって不利益を被る面があるとしても同氏であることに一体感を感じ同氏夫婦として生きるかは,夫婦としての在り方を含む個人としての生き方に深くねざす,憲法13条に由来する自己決定に委ねられるべき事項ですので,本件別異取扱いは,実質的には,夫婦同氏を希望する者と夫婦別氏を希望する者をその自己決定に委ねられるべき事項に基づいて別異に取り扱うものといえます。
    ⑶ 区別の対象となる権利利益の性質とその重要性
    そして,本件において区別の対象となっているのは,婚姻の自由(婚姻をするについての自由)並びに婚姻に伴う法律上・事実上の権利利益及び社会的承認です。婚姻の本質は,「両性が永続的な精神的及び肉体的結合を目的として真摯な意思をもって共同生活を営むこと」にあるところ(最大判昭和62年9月2日民集41巻6号1423頁),再婚禁止期間違憲判決(最大判平成27年12月16日民集69巻8号2427頁)が「憲法24条1項の規定の趣旨に照らし,十分尊重に値するもの」と判示したように,婚姻の自由(婚姻をするについての自由)の重要性については多言を要しません。本件各規定は,夫婦別氏を希望する者の婚姻の自由(婚姻をするについての自由)を,法的かつ直接的に制約するものといえます。
    ⑷ 合理的な根拠の不存在
    以上より,本件別異取扱いは,「事柄の性質に応じた合理的な根拠」に基づくといえない限り,憲法14条1項が禁止する差別的取扱いに該当するところ(最大判昭和39年5月27日民集18巻4号676頁等),平成27年大法廷判決(最大判平成27年12月16日民集69巻8号2586頁)は,夫婦同氏となることに一応の合理性があると述べるにとどまっています。「合理的な根拠」とは,夫婦が同氏となることについての合理的な根拠ではなく,夫婦別氏という選択肢を認めないこと(夫婦別氏を希望する者を婚姻制度から排除すること)についての「合理的な根拠」でなければなりませんが,平成27年大法廷判決においても国会における答弁等においても,夫婦別氏という選択肢を認めないことの合理的な根拠が述べられたことはありません。
    ⑸ 小括
    よって,夫婦が称する氏の記載ができない者,すなわち,夫婦別氏を希望する者に対する本件別異取扱いは,憲法14条1項が禁止する法的な差別的取扱いであり,本件各規定は憲法14条1項に明確に違反するものです。
  4. 上記3に記載した主張は,「当事者が適法に裁判上提出した攻撃防御方法」であり,これが認められれば,再審申立人ら(抗告人ら)が届け出た婚姻届の受理を命じる旨の主文が下される可能性があります。そのため,かかる主張は「裁判所の判断の主文に影響を及ぼす事項」に当たりますが,それにもかかわらず,先般の決定は,「その実質は単なる法令違反を主張するもの又はその前提を欠くもの」と述べるにとどまりました。
    憲法14条1項違反の主張が「単なる法令違反を主張するもの」でないことは明らかですので,本件では「その前提を欠くもの」との部分が上記の憲法14条1項違反の主張に対応する判示であると思われます。しかし,決定をご一読頂ければ明らかなように,この決定では,「その前提」が何を指すのかが全く述べられていません。そのため,この決定において「その前提」の意味するところは全くもって不明であり,本件の決定は「その理由中で判断を示さなかった場合」に明らかに該当するものと言わざるを得ません。
  5. 最高裁判所は「憲法の番人」である以上,仮に憲法違反の主張を排斥するとしても,その判断理由は,多くの国民がきちんと理解できるものでなければならないはずです。殊に,多くの報道がされているとおり,多数の国民が重大な関心を寄せ,かつ,婚姻をする上で必ず協議して定めなければならない「夫婦の氏」という国民にとって最も身近な法律事項の憲法適合性が争点とされている本件においては尚更のことです。それにもかかわらず,「その前提を欠く」という記載のみでは,国民は,最高裁判所の憲法に対する考え方を理解することが全くできません。最高裁判所の判断は,個々の訴えに対する判断を介して,その事案の個別的解決にとどまらず,憲法の一般的解釈に直接的又は間接的に影響を与えるものです。そのため,その判断の内容は,一般の国民が読んで合理的に理解できるものである必要があると考えます。
    2021年7月,河北新報社の情報開示請求により,最高裁司法研修所が2020年1月に開いた「複雑困難訴訟」(判決時に規範や基準の在り方が問題となるような,複雑で判断の難しい訴訟類型の総称)に関する裁判官の研究会において,「旧来の価値観を持つ人たちを全く無視したような判断はできない」「なるべく明文にしない」「不用意な判断は避けた方がいい」など,新しい価値観が争点となる場面で司法が権利判断の規範(在り方)や基準を示すことに否定的な意見が相次いでいたことが明らかとなりました。
    このような裁判所の姿勢は,旧来の価値観への配慮という形で少数者に対する人権侵害(差別)を黙認・放置するものであり,「人権の最後の砦」という裁判所の役割を自ら放棄するものと言わざるを得ません。
    第二次選択的夫婦別姓訴訟弁護団有志は,以上のような観点から,最高裁判所の憲法判断に対する態度に一石を投じる趣旨で,本日,敢えて再審の申立てに踏み切らせて頂いた次第です。
    なお,本件の決定のうち,三浦守裁判官の意見,宮崎裕子裁判官及び宇賀克也裁判官の反対意見,並びに草野耕一裁判官の反対意見は,本件各規定が憲法24条に違反するとするものであり,それゆえ,憲法14条1項違反の主張については論じる必要性を認めなかったものと考えられます。そのため,これらの意見及び反対意見について疑義を呈するものではないことを,念のため付言いたします。

2021年7月26日
第二次選択的夫婦別姓訴訟弁護団有志

再審申立ての結果 2021年9月17日

本年7月26日に憲法14条論の関連で行った再審申立てについて,最高裁第三小法廷から決定文を受領しました。結論は棄却で,その理由は「本件申立てについては,上記対象事件の決定に所論の民訴法338条1項所定の再審事由があるものとは認められない」という,わずか2行のみでした。
本申立ては,国会等でのやり取りも含め,「国民に伝わる言葉」での説明がおろそかにされている昨今の風潮に一石を投じる趣旨で行ったものですが,今回も最高裁から,「国民に伝わる言葉」での説明は一切なされませんでした。
司法の重要な役割の1つに,憲法,法律等から導かれる法論理に基づく,敗訴当事者・国民に対する説得機能があると言われますが,本件の大法廷決定及び今回の決定には何らの「論理」もなく,敗訴当事者・国民に対する説得の要素は皆無です。
最高裁長官は2018年の就任時に,「身近な存在として国民からより信頼される裁判所の実現,ひいては法の支配を揺るぎなきものとするために全力を傾けたい」と決意を語っていました。今回の申立てを踏まえ,最高裁には,国民に分かりやすい言葉で説明を尽くすことが,「裁判を受ける権利」を実質的にも保障し,国民の信頼に値する機関であり続けるために必須であることを再認識の上,「少数者の人権の最後の砦」としての役割をきちんと果たしていくことを,強く期待したいと思います。