☆別姓訴訟を支える会 メールマガジン☆第119号 2024年10月23日

みなさんこんにちは。別姓訴訟を支える会事務局です。

10月21日、札幌地方裁判所での初回期日を迎えました。
当日は傍聴券を求めて50人近くが並びましたが、残席数を超えなかったため、無事全員傍聴できました。
たくさんの支援者、メディア関係者の傍聴、報告会への参加、配信の視聴ありがとうございました!

さて、当日、法廷ではあまり見ることのない、裁判長と弁護団とのバトルが繰り広げられました。
いったい何が起こっていたのでしょうか?
野口弁護士が解説します。

■ 「原告は見た!能面裁判長VS暴れ馬野口弁護士+ロデオ三浦弁護士【前編】」 ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・・ 

2024年10月21日(月)午前11時10分から、札幌地方裁判所の805号法廷(大法廷)で、第3次選択的夫婦別姓訴訟(札幌訴訟)の第1回口頭弁論期日が開かれました。
当日は天候に恵まれると共に、大法廷(定員80名)がほぼ満席になる程の多くの傍聴人・報道機関の皆さんにお越し頂くことができ、非常に有難かったです。

他方で、当日、私は非常に緊張していました。
というのも、事前に裁判所から、「法廷での口頭弁論・意見陳述は許可しない」という電話連絡を受けていたためです。

多くの皆さんは、「裁判」と聞くと、映画やドラマのように法廷で弁護士が饒舌にしゃべる姿をイメージされるかもしれませんが、実際の日本の民事裁判では「口頭主義」という原則と「書面主義」という例外が逆転しています。
そのため、一般的な傍聴人がほとんど入らない案件では、原被告双方の弁護士は、事前に訴状等の主張書面を裁判所と相手方に送った上で、法廷では「訴状のとおり陳述します」といった一言を述べるだけで「口頭主義を充たしたことにする」という、かなり残念なやり取りが行われています。
その結果、日本の民事裁判では、「口頭弁論期日」という名称は付けられているものの、法廷で「口頭」での丁々発止のやり取りがなされることは、(尋問期日を除き)ほとんどありません。

しかし、当然ですが、そのような通常の実務どおりの進行では、傍聴人の皆さんには、裁判官と両当事者(及びその代理人)との間で何が行われているか、全く分かりません。
そのため、当弁護団では、第1次訴訟の時から原告の皆さん及び弁護士が「口頭主義」の原則どおり、法廷で意見陳述又は訴状等の準備書面の要旨の告知を「口頭」で行ってきました。
そして、その申入れは、今回の裁判所以外のほぼ全ての裁判所で認められてきました(一部、意見陳述の人数や時間を厳しく制限する裁判所はありましたが…)。

それにもかかわらず、今回の担当部である札幌地裁民事第5部(守山修生裁判長)は、「原告の意見陳述も、原告代理人の訴状等の弁論要旨の陳述も、一切認めない」と言ってきました。
これは当然ながら、口頭主義という民事訴訟法の原則を完全に無視するもので、原告である佐藤さん・西さんの弁論権と裁判を受ける権利(憲法32条)を明確に侵害すると共に、傍聴人の皆さんにやり取りの内容が全く伝わらない以上、憲法82条が保証する裁判の公開原則にも反するため、その旨を書面でも法廷でも主張しました。
しかしながら、守山裁判長は、公開主義は全ての事件において守られる訳ではない、
口頭主義も書面の全てを口頭で述べさせなければならない訳ではない、
口頭での陳述が本件訴訟の進行にとって有益でなければ、本件では口頭での陳述は認めない等と述べ、
当方の異議も却下しました(訴訟当事者は、民事訴訟法150条に基づき、裁判長の訴訟指揮に対して異議を述べることができます。
ただ、例えば野球でも、審判の判定に異議を述べてもそれが覆ることはほとんどないように、その異議で裁判長の訴訟指揮が改められることはほとんどありません…)

率直に申し上げて、今回の裁判長の訴訟指揮は違憲・違法の疑いが極めて強いため、私としてはどこで矛を収めるか、非常に迷っていました。
むしろ矛を収めず弁論を強行して私が退廷になった方が、マスコミの皆さんに大きく報道してもらえるのではないかとも思っていました。

その時、私の隣に座っていた三浦弁護士が上手く機転を利かせ、
「本件において、原告両名が直接口頭で自らの意見を述べることは、アイデンティティの喪失や氏の変更によって被っている不利益の有無のみならず、その程度までを明らかにするもので、本件訴訟にとっては確実に有益だと考えているがどうか」
と発言し、裁判所の見解を求めました。
これは、やり取りのポイントを「代理人による訴状等の要旨の陳述」から「原告両名による意見陳述又は本人尋問」に切り替えるもので、絶妙なタイミングでの非常に的確な発言だったと有難く思っています。

これに対し、守山裁判長は、
「確かに、本件において原告両名の発言を直接聞くことは、アイデンティティの喪失等の不利益の程度を理解する上では有益だと考えているため、この訴訟の審理のどこかで本人尋問の形で直接話を聞くことにしたい」
と述べ、佐藤さん・西さんの発言を「意見陳述」の形では聞かないものの、「本人尋問」の形で聞くと明言してくれました。

やや細かい話になりますが、「意見陳述」は民事訴訟法上の正式な手続ではないため、陳述した意見がそのまま証拠としての意味を持つことはありません。
他方で、「本人尋問」は正式な証拠調べの一方法なので、佐藤さん・西さんが「本人尋問」の手続の中で述べた証言は、本件訴訟における正式な証拠になります。
裁判所からは事前に電話で、「本件訴訟において原告両名の本人尋問を行うか否かは、訴訟の審理が進んだ段階で申請してもらえば、その時点で必要性を判断する」と言われており、当方としては最終的に「本件においては、本人尋問を行う必要性もなし」と判断されてしまうことを一番怖れていました。
そのため、本件において佐藤さん・西さんの発言の機会が確保できたことは、今回の期日での一番大きな収穫でした。
この裁判官の発言を受け、私はこれ以上「代理人による訴状等の要旨の告知」に拘る必要はないと判断し、矛を収めることにしました。

その後は通常の案件と同じく、次回期日の日取り(来年1月31日(金)午前10時30分)とそれまでのスケジュール(来年1月20日(月)までに当方が国際的動向、学説・評釈のまとめ、国会の立法裁量には任せられないこと、第三者のエピソード等に関する準備書面及び証拠を提出すること)が決められ、手続が終了しました。

以上が10月21日に行われた札幌訴訟第1回期日のご報告となります。

法廷での裁判長と私の発言のいずれもマイクに上手く拾われていなかったとのことでもあり、分かりにくい点が多々あったかと思いますが、この記事が少しでも皆さんの裁判への理解に資するものになっていれば幸いです。
引き続き何卒よろしくお願いいたします。

弁護士 野口敏彦

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