みなさんこんにちは。別姓訴訟を支える会事務局です。
前号から、6月23日に出された最高裁大法廷の決定について、別姓訴訟を支える会関係者全員のコメントを掲載しています。今号も弁護団より、川見未華さん、橘高真佐美さん、木村いずみさん、竹下博將さんのコメントをご紹介します
あとは法律が変わるだけ!
訴訟の書面準備の中で、過去から現在までの世論調査について調べました。昭和28年3月に行われた「家族制度に関する世論調査」では、「女は結婚すれば必ず男の姓を名のらなければならない」という質問が設定されており、これに対して、「正しい」と答えたのが46%、「正しくない」と答えたのが49%、「不明」と考えたのが5%と、肯定意見と否定意見が拮抗しているような状況でした。
あれから時は流れ、平成29年12月に実施された世論調査では、選択的夫婦別姓制度導入に関し、賛成意見(42.5%)が反対意見(29.3%)を上回る結果となっています。
社会も、家族の形も、個人の価値観も、長い年月の中で変化してきたことは、こうした調査結果からも明らかです。法律も、その変化に応じて形を変えていかなければなりません。当たり前のことを実現する難しさを痛感していますが、一刻も早い法改正を心から願いつつ、今回の最高裁決定を、今後の活動につなげていきたいと思っています。
弁護士 川見 未華
少数意見の中に光る女性差別撤廃条約に関する判断
今回の決定では、宮崎・宇賀反対意見が、夫婦同氏制の法改正を要請する3度目の正式勧告を女性差別撤廃委員会から受けたことが国会の立法裁量を超えるものであると強く推認させると6頁に渡り、女性差別撤廃条約について論じています。今回の裁判でも、女性差別撤廃条約は「締約国がその権利の実現に向けた積極的施策を推進すべき政治的責任を負うことを宣明したもの」に過ぎないと述べた地裁や高裁がありました。法律よりも上位とされる国際条約がなぜこれほど軽視されるのかと憤りを感じましたが、宮崎・宇賀反対意見は、女性差別撤廃条約には法的拘束力があるとはっきりと書いてくれました。
女性差別撤廃委員会から夫婦同氏強制が女性差別に当たるとの指摘に対し、日本政府は例えば、夫婦の氏は夫と妻のどちらの姓も選べるのであるから、女性差別には当たらないというような反論は全くせず、「選択的夫婦別氏制度の意義等についてQ&A方式でまとめたものをHPに掲載するなどの広報を通じ、国民的な議論が深まるように周知に取り組んでいく」などと民法改正を目指す対応を行っているかのようなコメントを出してきました。
宮崎・宇賀反対意見は、このように日本政府が女性差別撤廃委員会に対しては、女性差別に当たるという解釈を争うことなく、是正に向けた対応を行っていると説明しながら、国会は法を改正しないままとなっていることを指摘しています。第1次訴訟では、国は夫婦同氏強制が女性差別撤廃条約に違反するものではないと主張しました。女性差別撤廃委員会への対応とは矛盾する司法の場での国の二枚舌ぶりにあきれていたので、今回の宮崎・宇賀意見に溜飲を下げました。
しかし、まだこれは少数意見です。夫婦同氏強制が女性差別撤廃条約違反と多数意見で認められるように、そして選択的夫婦別姓制度が実現するように、一緒に頑張りましょう。
弁護士 橘高 真佐美
弁護士にできること
法科大学院の鈴木利廣弁護士の授業で、「弁護士はエンジンだ。」とおっしゃっていたのがとても心に残っています。一人ひとりの原告の方の思いを受け止め、それを裁判の場にもっていき、マスコミを使って世論を動かし、そして国会を動かすこと、その弁護士の役割について、エンジンだとおっしゃっていました。
私は、主に事情変更についてお手伝いさせていただきましたが、世論は確実に動いてきていると感じていました。今回は、残念な結果にはなりましたが、前回の大法廷判決より一層力強い反対意見を得られたことは次へのステップだと信じています。時代はEV車ですが(笑)、エンジンの一つとして、微力ながら引き続き頑張りたいと思います。
弁護士 木村 いずみ
司法試験を目指す貴方へ
1 夫婦同氏を強制する民法750条と憲法24条との関係について論ぜよ
【コメント】
第一次夫婦別姓訴訟の最高裁大法廷判決(多数意見)は,憲法24条について,憲法13条・14条にはない独自の意味を見出し,「憲法上直接保障された権利とまではいえない人格的利益をも尊重すべきこと,両性の実質的な平等が保たれるように図ること,婚姻制度の内容により婚姻をすることが事実上不当に制約されることのないように図ること等についても十分に配慮した法律の制定を求めるものであり,…立法裁量に限定的な指針を与えるものといえる」と指摘した。この規範定立は重要。覚えておくべき。もっとも,この規範を民法750条に当てはめて憲法24条に反しないとした説示については,多数意見を真似してはいけない。「人格的利益の尊重」,「両性の実質的平等」及び「婚姻の不当な制約」のいずれの点についても,配慮していないから。
2 夫婦同氏を強制する戸籍法74条1号と憲法24条との関係について論ぜよ
【コメント】
第二次夫婦別姓訴訟の最高裁大法廷決定(多数意見)は,第一次夫婦別姓訴訟の大法廷判決(平成27年大法廷判決)の説示を前提に,「民法750条…を受けて夫婦が称する氏を婚姻届の必要的記載事項と定めた戸籍法74条1号の規定もまた憲法24条に違反するものでないことは,平成27年大法廷判決の趣旨に徴して明らかである」と判示した。この説示は,決して真似してはいけない。結論しか述べておらず,婚姻の効力を定める民法750条と婚姻の成立要件を定める戸籍法74条の違いを考慮していないし,規範定立も当てはめもない。一字一句違わずに丸写ししても,司法試験では通用しない。
これに対し,三浦守裁判官の意見は丸覚えしてまおう。「氏」及び「婚姻の自由」の意義から丁寧に説示し,憲法24条に反することを説得的に論じている。これぞ,目指すべき法律家の文章。
弁護士 竹下 博將
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