☆別姓訴訟を支える会 メールマガジン☆第120号  2024年10月27日

みなさんこんにちは。別姓訴訟を支える会事務局です。

札幌地裁初回期日での裁判長と弁護団のやり取りを描き、前回大好評をいただいた「原告は見た!能面裁判長VS暴れ馬野口弁護士+ロデオ三浦弁護士」。

前回は『暴れ馬』野口弁護士の視点でお伝えしましたが、今回は【後編】として、暴れ馬を見事に乗りこなした『ロデオ』三浦弁護士の視点から解説します。

■ 「原告は見た!能面裁判長VS暴れ馬野口弁護士+ロデオ三浦弁護士【後編】」 ━━━━━━━━━━━━━━・・・・・・ 

期日にいたるまで、実は、裁判所との間で静かな闘いが繰り広げられていました。

弁護団は第1回期日に原告の西さん佐藤さんからの意見陳述と、代理人による訴状などの提出した書面について要旨を口頭で陳述をすることを求めていました。
しかし、裁判所からの回答は、原告の意見陳述は認めない、代理人による口頭での説明も認めない、というものでした。
この訴訟は、婚姻したいと考えるすべての人に関係する社会的にも注目を集める事件であり、そのような社会的に関心の高い事件では、原告による意見陳述や代理人による口頭での弁論が行われることがよくあります。
それは当事者以外の人にも影響する訴訟において、どのような議論がされているのかを傍聴に来た人も知ることができるという点で、社会的にも意義があることです。
裁判所がこの重要な意義をきちんと理解しようとせず、意見陳述も、口頭での弁論も認めないという運用を何もせず是認してはいけない
──そのような思いから、札幌訴訟の事務局長である野口弁護士が切り込み隊長となり、裁判所と期日で闘おうという話になりました。

しかし、裁判所と闘うといってもそう簡単なことではありません。
民事訴訟法148条1項には「口頭弁論は、裁判長が指揮する。」とあり、法廷内でのやり取りについて指揮する権限(訴訟指揮権)が与えられています。
そして、同じ148条の第2項では「裁判長は、発言を許し、又はその命令に従わない者の発言を禁ずることができる。」とも定められています。
法廷で喋るか喋らないかについて、裁判長が決めることができるということが明文で定められているのです。

訴訟指揮権を持つ裁判長が発言を禁止したのに、事実上しゃべり続けたらどうなるかというと、その発言は訴訟上効力を有しない、とされています。
発言が禁止されるタイミングによっては、裁判を欠席した扱いになる不利益を受けることがあります。
そのため、裁判長が発言を禁止するというのは手続的には大きな意味を持っています。

怖い(?)のは訴訟指揮権だけではありません。
裁判長には法廷警察権といわれるものがあり、裁判所の職務の遂行を妨げたりしたものに対して、着席命令をしたり、退廷命令をしたりすることができると裁判所法71条では定められています。
前編で野口弁護士が弁論を強行して退廷になったほうが──と頭をよぎっていた話は、以上のような法廷警察権の発動を想定したものでした。
退廷させられるかもしれない覚悟で裁判所と闘うのは非常に勇気がいることです。
私はそこまでの勇気はなかなかありません(野口弁護士、どうもありがとうございました…!)。
せめて、訴訟指揮権などに関する民事訴訟法の議論を調査して、そこで得られたネタを野口弁護士に提供して焚き付けつつ、サポートをする役回りをしようと思いました。

期日当日、裁判長から、口頭での陳述が本件訴訟の進行にとって有益でなければ、本件では口頭での陳述は認めないとの発言があり、闘いの火ぶたが切られました。
これに対して、野口弁護士は立ち上がり、訴訟の進行について異議を述べ、口頭主義の意義、傍聴人の知る権利に資すること等から、口頭での弁論をすること、発言を禁止されても退廷覚悟で弁論を続けようと思っているといったやり取りがありました。

これに対して、早速、裁判長から、「発言を禁止します」(発言禁止命令!)、「代理人は着席してください」(着席命令!)との発言がありました。
それに対しても、野口弁護士は(着席はしたものの)果敢に反論を続けていましたが(暴れ馬の役割に徹する野口弁護士、頭が下がります…)、この時点で私が心配したのは、訴状が陳述できないまま終わってしまい、手続が停滞したらどうなるのかということでした(あと、野口弁護士が退廷になってしまわないかもちょっと心配していました。)。

そこで、まだ発言が禁止されていない私の方で、一旦、裁判長とのやり取りを引き取ることにしました。
私から概ね2点を述べました。
(1)訴状や準備書面の内容はボリュームのあるものになっており、審理の最初にその要点・核心部分を当事者や裁判所で認識を共有することには今後の審理においても意義がある
(2)本件は一方で氏を変更したことによるアイデンティティの喪失感が問題となり、一方では事実婚で生活せざるを得ないという不安感・不安定感、婚姻をする際の意思決定が自律的にできているのかという程度感が問題になっている。
そうした当事者が置かれている状況の問題を直接口頭で聞くことは本件においては重要であるといった内容です。

この狙いは2つです。
口頭でのやり取りが「有益か」で判断するという裁判長に対して、「有益である」ことの説明をしている形で原告らの主張の要点を傍聴席にも聞こえるように口頭で説明をすること。
もう1つは、(2)のような話をすれば裁判長は「本人たちの話を聞くことに意味はあるかもしれないが、代理人による口頭での弁論は不要」といった反論に飛びついてくれるかもしれない、そうしたら本人たちの話を直接聞く機会を設けるように求める話に繋げることにありました。
その結果、裁判長からは、原告から直接話を聞くことは必要だと思っているが、意見陳述は不要であるという発言がありました。
ここぞとばかりに、じゃあ原告本人の尋問はちゃんと実施してくださいと述べました。

原告本人の尋問について裁判長の言質をとったことに安心した私は、隣の席の野口弁護士にそろそろ矛を収めるかと耳打ちしました。
しかし、そこはさすが野口弁護士、暴れ馬としての使命のため、改めて裁判長に対して不服を述べ、異議に対する判断を求めました。
結局、異議は認められず、最終的には「書面のとおり陳述します。」と述べるだけになりましたが、裁判所にきちんと異を唱える姿勢を貫いたことは、今後裁判所に緊張感をもって対応してもらうために、非常に重要なことだったと思います。

今後の展開にも、ぜひご注目ください!!

弁護士 三浦徹也

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!