別姓訴訟を支える会のみなさま、こんにちは。
久しぶりの発行となってしまいました。
第3次訴訟に向けて弁護団は動き出していますが、まだ議論をしている状況です。
今回は新しく弁護団に入られた久道瑛未(ひさみち えみ)さんが寄稿してくださいました。
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弁護団メンバーに新しく加わった久道と申します。
国会における夫婦別姓についての議論を掘り起こす作業をしています。
時々有益だと思われる情報を、皆さんにお届けできたらと考えています。
今回ご紹介するのは、割と最近の議論です。
昨年2022年11月24日行われた第210回国会・参議院内閣委員会第6号における、立憲民主党の杉尾秀哉議員からの質問と、それに対する金融庁・警察庁の回答部分をピックアップしたいと思います。
これは、マネーロンダリング・テロ資金供与・拡散金融対策(以下「マネロン対策」といいます。)と、金融機関における通称使用を進める国の方針が、相反するものであるということを浮き彫りにする議論でした。
杉尾議員から指摘があったのは、2021年に公表されたFATF第4次対日相互審査の結果についてです。
FATFとは、簡単にいうとマネロン対策のために相互審査を行う多国間の枠組み のことです。
2021年8月には、日本を対象とする審査報告書が公表され、日本は、マネロン対策が有効かどうかを審査する11項目のうち8項目が基準を満たしていないとされました。
日本で687万口座もある休眠口座が犯罪利用されるリスクや、本人確認が不十分で、実際に地方銀行から北朝鮮に6億円が送金されたという数年前の事件の検証など、様々な問題点が取り上げられる中で、「口座での旧姓の通称使用」についての問題も触れられました。
すなわち、マネロン対策のためには、他国に倣い、口座開設や口座維持においてより厳格な個人認証が必要とされています。
これに対して、口座での通称使用の拡大は、逆行するものではないのかという指摘です。
金融庁は、女性活躍推進の一環として政府が旧姓の通称使用拡大に取り組んでいることを前提とした上で、預金口座についても概ね5割程度が旧姓名義による口座開設に対応していると回答しました。
しかし、信用組合のほとんどは旧姓による預金口座開設にほぼ未対応であり、銀行や信用金庫でも未対応である機関が少なくありません。
それらの金融機関において、未対応の理由として最も多く挙げられたのが、「マネロン及びテロ資金供与防止対応に懸念が生じるため」ということでした。
今回のFATF審査は、金融機関における旧姓使用が本格化した2019年末ごろより前に行われたものであり、実際には今回旧姓使用による口座開設の状況については、FATFの審査対象になっていない可能性があります(この点について金融庁は、FATF審査団との具体的やり取りは明かせないとして、明確にしていません)。
つまり、次回の審査の際には、口座における旧姓利用が悪評価の要因となる可能性が否定できません。
警察庁に対する質問では、2018年に、暴力団員が登録を受けずに貸金業を営んでいた事件において、暴力団員の妻の旧姓口座が使用されていた事例が紹介され、実際に、旧姓による預金口座の開設・維持が、マネロンや犯罪利用されるリスクが実際に現実化していることが明らかになりました。
こういったリスクにどう対応するのかという質問に、金融庁は、旧姓と本姓を紐付けるための大規模なシステム改修が必要になり、相当程度の作業期間と費用が見込まれると回答しました。
このように、女性活躍のためと銘打って、「通称利用」を推し進めたところで、個人認証上のリスクと、それに対する対応に莫大なコストがかかることを考えれば、マネロン対策の観点から、特に資金に余裕のない金融機関は、通称利用を認めることに後ろ向きにならざるを得ないでしょう。
私は、責められるべきは通称利用に対応しようとしない金融機関ではないと思います。
本来的に個人の認証を厳格にすることと矛盾する「通称利用」なという表面的な対応で、強制的夫婦同氏制に執着する政策は、あらゆる側面ですぐに限界に直面するということです。
「通称利用の拡大」では、選択的別姓制度を求める人々が求める本来的な課題は解決せず、金融機関、官公庁、あらゆる場所で過剰なコストが嵩むことの一例が、今回ご紹介した国会質疑においても垣間見えた議論でした。
弁護士 久道瑛未
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