☆別姓訴訟を支える会 メールマガジン☆第76号  2022年05月15日

みなさんこんにちは。別姓訴訟を支える会です。
遅くなってしまいましたが、今号では、最高裁判所から3月22日に出された決定について、寺原真希子弁護士が解説します。

◆◆◆

第二次選択的夫婦別姓訴訟のうち、別姓での婚姻届の受理を求める申立てに対する最高裁大法廷決定は2021年6月に下されましたが(その解説はこちら↓)
http://xs589338.xsrv.jp/commentary_20210628/
2022年3月、国家賠償請求に対する最高裁決定が下されました。

具体的には、まず、2022年3月22日付けで、国家賠償請求訴訟のうち第1審が東京地裁立川支部と広島地裁の件について、最高裁第三小法廷から上告棄却の決定が出され(決定全文はこちら↓)
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/054/091054_hanrei.pdf
その後、同月24日付けで、第1審が東京地裁本庁の件について、最高裁第一小法廷から上告棄却の決定が出されました。後者は裁判官5人全員が合憲の判断で新たな意見は付されませんでしたが、前者では5人の裁判官のうち2人が違憲と判断しましたので、前者(3月22日付け決定)について解説します。

この決定では、宇賀克也裁判官と渡邉惠理子裁判官が、「夫婦同氏制を定める民法750条および戸籍法74条1号の規定は憲法24条に違反する」という違憲意見(反対意見)を述べました。宇賀裁判官の意見は2021年6月23日の最高裁大法廷決定と同様で、今回新たに付されたのは、2021年の大法廷決定の後に最高裁裁判官に就任した渡邉裁判官の意見です。3人の裁判官による合憲判断には理由の補足などありませんでしたので、決定全文のほとんどが渡邉裁判官の違憲意見で占められています。

渡邉裁判官の違憲意見は、次のような構成となっています。

1 氏の重要性
2 婚姻の自由の制約であること
3 婚姻の自由の制約の客観的合理性の有無
(1) 家族の識別・一体感について
(2) 子への影響について
(3) 通称使用について
(4) 選択の機会の重要性について
4 結論

ひとつずつ見ていきましょう。

1 氏の重要性

まず、渡邉裁判官は、「『氏』は『名』と一体をなす」として、「氏」を「名」から切り離して家族の呼称としての意義を強調した第一次訴訟の最高裁大法廷2015年12月16日判決の合憲意見と異なる前提に立つことを明らかにした上で、「『氏名』は、個人を識別するという重要な機能を有するとともに、その個人にとっては、個人として尊重される基礎であり、人格の象徴でもある」という、最高裁が過去のNHK日本語読み訴訟判決(最高裁昭和63年2月16日判決)で述べた原則を確認しました。

その上で、渡邉裁判官自身の表現として、「氏名は、それを用いて生活する年月の経過や経験の積み重ねに伴い、個人の識別機能とともに、個人の人格を表すものとしての意義をさらに深めていく。このように、氏名は、個人がそれまで生きてきた歴史、人生の象徴ともいうべきものであり、婚姻時まで使用してきた従前の氏の変更は、個人の識別機能を喪失させ、また、個人の人格(アイデンティティ)の否定に繋がることから、近年の晩婚化が進む傾向のなかで、氏名は、個人にとっての重要性は極めて高く、個人の尊厳として尊重されるべきものである。」として、氏が「個人の尊厳」の観点から極めて重要なものであると述べました。

2 婚姻の自由の制約であること

次に、渡邉裁判官は、「憲法24条は…婚姻にあたっても個人の尊厳を最大限に尊重 すべきとの価値観に立ち、同条1項は、婚姻(法律婚)の自由を保障している」として、やはり婚姻における「個人の尊厳」の尊重を強調した上で、「婚姻(法律婚)の自由は、実質的にも保障されるべきものである。」としました。

その上で、「本件各規定は…婚姻をしようとする者に従前の氏を変更するか法律婚を断念するかの二者択一を迫るものであり、婚姻の自由を制約することは明らかである」から、「その制約に客観的な合理性が認められない限り、本件各規定は、憲法24条1項により保障された婚姻の自由を侵害するものとして同条に違反する」との判断基準を示しました。

2021年6月の最高裁大法廷決定の合憲意見(補足意見)が、「婚姻の効力から導かれた間接的な制約と評すべきものであって、婚姻をすること自体に直接向けられた制約ではない。」「法律婚制度の内容の一部である夫婦同氏制が意に沿わないことを理由として婚姻をしないことを選択することがあるとしても、これをもって、直ちに憲法24条1項の趣旨に沿わない制約を課したものと評価することはできない。」とした上で、「法制度をめぐる国民の意識のありようがよほど客観的に明らかといえる状況があるか」という、少数者の人権の砦たる司法の役割を放棄するかのような観点を持ち込んだことと対照的です。

3 婚姻の自由の制約の客観的合理性の有無

そして、そのような「客観的な合理性」が認められるかを検討する中で、渡邉裁判官は、以下の(1)~(4)の4点を指摘しました。

(1)家族の識別・一体感について

・事実婚の場合、離婚した場合、外国人と婚姻した場合、再婚した場合など、氏の同一性によって家族を識別できない場合は既に相当数存在していること。

・そもそも、家族の一体感は、間断のない互いの愛情と尊敬によってはじめて醸成、維持され得るものであり、同一氏制度によってのみ達成できるものではないこと。
また、同一の氏であることが家族の一体感を醸成することに役立つとしても、そのような家族の一体感が、婚姻に伴い氏の変更を余儀なくされた一方当事者の現実的な不利益(犠牲)によって達成されるべきものとすることは過酷であり、是認し難いこと。

・家族制度の維持という名のもとでの制約が、若い世代の将来にとって足かせとならないようにすべきであること。

(2)子への影響について

・親と氏を異にする場合に子が受けるおそれがある不利益は、氏を異にすることに直接起因するというよりは、家族は同氏でなければならないという価値観やこれを前提とする社会慣行等に起因するもののように思われること。

・子の福祉のみをもって夫婦同氏を要求する本件各規定に客観的な合理性があるということはできず、むしろ、これらの子への配慮も踏まえた具体的な検討を重ねることが国会に期待されていること。

(3)通称使用について

・通称を使用する個人と戸籍上の個人の同一性をどのように確認するかなど、識別機能の観点から新たな問題を生じていること。

・金融機関との取引や医療機関における同意・承諾の例のように、通称が戸籍上の氏名に完全に代替するものではないこと。

(4)選択の機会の重要性について

・個人が婚姻相手の氏に変更するとしても、選択的夫婦別氏制により選択の機会が与えられたうえで、個人がその意思で婚姻相手の氏への変更を選択したものであるか、夫婦同氏制により氏の変更が事実上余儀なくされた結果であるかには、大きな違いがあること。

・その個人の意思決定がその後の生き方にも影響を与えることに鑑みると、このような選択の機会を与えることこそ、個人の尊厳の尊重であること。

4 結論

以上の4点を踏まえ、渡邉裁判官は、「婚姻の自由に対する本件各規定による制約には客観的な合理性があるとは認め難い」とし、「本件各規定は、婚姻の自由を侵害するものとして憲法24条に違反するというべきである」と結論づけました。

渡邉裁判官の違憲意見は、全体的に、一般の方にも理解しやすい言葉で書かれており、また、「個人の尊厳」を非常に重視していることが分かる内容でした。
個人的には、特に、「(婚姻の際の氏に関する)個人の意思決定がその後の生き方にも影響を与える」との視点が、婚姻改姓を余儀なくされた一当事者としても、強く共感を覚えるものであり、「選択の機会を与えることこそ、個人の尊厳の尊重である」という指摘は、まさしく弁護団が本訴訟を通じて訴えてきた主張の本質を捉えたものであると感じました。

2018年3月に始まった第二次夫婦別姓訴訟は、2021年6月の最高裁決定と2022年3月の最高裁決定をもって終了したことになります。多数意見(法廷意見)としての違憲判決・決定を得ることができなかったことは残念ですが、合計5人の最高裁裁判官による説得的な違憲意見は、この訴訟の成果であると考えています。

弁護団では、現在、第三次訴訟の提起へ向けて、法律構成を検討する弁護団会議を重ねているところです。今回の5人の裁判官の違憲意見や、第一次訴訟の最高裁大法廷判決に付された5人の裁判官の違憲意見は、将来の違憲判決・決定への、確固たる道しるべです。夫婦別姓か夫婦同姓かを選べる社会の実現へ向けて、引き続き、ご支援のほど、どうぞ宜しくお願い致します。

弁護士 寺原真希子

 

 

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